格闘技の聖地はさいたまスーパーアリーナより、やっぱり後楽園ホールだと僕は思う。
毎回あのエレベーターを上っていく時の「これから格闘技を見るんだな」ってワクワクしてくる高揚感。
選手の友達、同じジムの仲間、家族、そして格闘技を愛する知らない人たち。みんなの思いが、あの会場では目で見えるかのように交差する。
まだ行ったことない人は、ジャズでも聴くような気持ちでフラッと入ってみてほしい。
ほぼ毎日、誰かがあそこで闘っている。
2021年10月29日、この日の大会はKNOCK OUT 2021 vol.5。
先日取材した銀次選手のタイトルマッチを撮影させていただけることになり、熊本から飛んできた。
東京でのコロナ新規感染者は24人、街は飲みに行く人で溢れていた。後楽園ホールも50%の収容定員ながら、ほぼ完売の客入り。
第一試合から多くのお客さんが席に着いていた。その期待に応えるかのように、熱い闘いが続いていく。
銀次がウォーミングアップを始めたと聞き、撮影しに行った。
その時の動きがキレすぎてて、始めは全くカメラで追えなかった。当然だけど先日の追い込み練習の時とは完全に別人の動き。
これは獲るなって思った。負ける気がしない。
試合時間が近づいてきて、銀次は重厚な壁の前に立っていた。
「この試合をする為にやってきたのかもしれない。最高の舞台で、最高の相手と。本物になりたくて頑張ってきた」試合当日、Twitterにはそう書いていた。
一人で歩いて後楽園ホールに向かっていたら泣きそうになったと。
彼はどんな気持ちでエレベーターを上ったのだろう。どんな思いで出番を待っているんだろう。


ついにメインイベントKNOCK OUT-BLACKフェザー級王座決定戦
龍聖 (TRY HARD GYM) vs 銀次 (Next零)の時間になった。
入場してくる銀次をお客さんが温かく迎え入れる。ゴングが鳴る前、遠くから「銀次やってくれ!」と声が上がった。(本当は声出しちゃいけないけど)
福岡県飯塚市から来た銀次だが、全くアウェイな雰囲気はなく、期待を持って見てくれている。
本当に最高の舞台だった。
1R、先手を取ったのは龍聖のカーフキックだった。
リーチで不利な銀次は中に入れずに何発か被弾。厄介な武器だ。そして近づくと首相撲で動きを封じられ、コカされる。これでは印象が悪い。そんな展開が2Rも続く。
最終ラウンド。前に出るしかない銀次のギアは上がった。
完全に根性で上げた。地元で応援してくれる人の為にも、このまま負けるわけにはいかない。
当然被弾するリスクも増えるが、それも構わず勢いで龍聖を飲み込んでいく。
銀次が攻め込み、試合終了のゴングは鳴った。
3Rは銀次、あとは1、2Rをどう見てくれたかどうか。
判定は1、2Rを取った龍聖に上がった。銀次の追い上げも届かなかった。
しかし後楽園ホールは大きな拍手に包まれた。それは間違いなく銀次も含めた”2人の闘い”に送られたものだ。
試合前、「まず誰?勘違い野郎」と色々煽り合ってきた2人だったが、闘い終わり長く言葉を交わしていた。
何を話したのか、感じたのかは二人にしか分からない。ただ2人ともプロのメインイベンターだった。
その証のような拍手だったと思う。


試合の翌日、銀次はこうツイートした。
「悔しいなぁ~ でも無理だな…なんてことはなかったな。この負けをしっかり受け止めて、さらに進化するよ。諦めなければ夢は叶う このままでは終わらねぇよ」
まだ26歳。伸び盛り真っ只中の銀次から益々目が離せない。
